身体均整法とは
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身体均整法は、運動系の視点からその人の心身の状態を読み取り、手
技的な技術を用いて身体に働きかける身体操縦法です。
その特徴は、従来の筋運動学や関節運動学、整形外科学の成果に立脚
しながら、独自に確立した運動系の把握にあります。
とくにマイナスの側面から光が当てられることが多い運動系のアンバ
ランスに、「くつろぎ」という視点から、光をあてたところに特色があります。
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運動系
とはなにか
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運動系とは、筋肉・骨格とそれに附随する腱や靱帯、さらにこれらの
働きを調整する神経系を総称した解剖学のカテゴリーです。
運動系の作用は、身体の静的なバランス(姿勢)、動的なバランス(可動性)、さ
らに静的・動的なバランスのなかでの力の充実度(あるいは弛緩度)*となって表れ
ます。
モワレ図を用いた姿勢の歪みの検出や、ゴニオメータを用いた関節可動域の検査、
種々の筋力検査は、運動系の検査として一般的なものとしてよく知られています。
* 同じ姿勢のなかにも、力の充実した
力強いものと逆に力の弱いかよわいものなど、力の充実度に違いがあります。また、
同じ動きのなかにも、力の充実した力強いものと逆に力の弱いものなど、力の充実度
に違いがあります。
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運動系
のアンバランス
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このような姿勢のバランス・可動のバランス・力のバランスは、関節
を中心にした三次元の座標系の上に位置付けることができます。
たとえば腰部では、前後屈の運動・左右屈の運動・左右回旋動作の運
動といったように、前額軸・矢状・水平軸にそった回旋運動の対称性の乱れとなって
把握することができます。
運動系のアンバランスは、身体の構造上、頚部動作や腰部動作のよう
に、多関節の協調によって生み出されるマクロレベルの乱れと個々の関節面に生ずる
ミクロレベルの乱れが、複雑にからみ合って生じてきます。
こうしたことから、運動系の把握は、系統性と包括的な視野を持って
すすめる必要があります。
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整形外
科学的な視点
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運動系の視点から身体を捉えたもっとも代表的なものとして整形外科
学があります。
整形外科学のなかには、神経学的な視点、関節運動学的な視点、筋運
動学的な視点などがあります。
たとえば膝蓋腱反射のテストを例に取ると、一定の正常域から(+)
あるいは(−)の度合いを判定することができます。
神経学的な観点から見ると、膝蓋腱反射の亢進については、おもに中
枢の抑制系の神経系障害(錐体路の障害)が、また低下については、大腿四頭筋その
ものの障害、あるいは大腿四頭筋を直接支配する神経系の障害が示唆されます。
しかし現実には、病理的な異常所見を伴わない範囲のなかで、膝蓋腱
反射の亢進や低下、左右のアンバランスはたえず発生しています。
このような正常範囲内での運動系のアンバランスは、身体運動という
目的にとっては、とりたてて意味のない余分なものです。
また筋肉や関節の能力の点から見ると、きわめて子細なもので、運動
機能上取り立てて不具合を生じるものではありません。
したがって、従来ほとんどのその意義について注目されることはあり
ませんでした。
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バイオ
メカニクスの視点
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身体運動を力学的な観点からとらえようとする研究分野としてバイオ
メカニクスがあります。
バイオメカニクスでは、地球上の力学的な環境のなかで、運動系が
になっている役割や能力が研究されてきました。
荷重やエネルギー効率という視点から、関節の構造がどのように運動
の能力や制限をもたらしているかが明らかにされてきました。
そして、運動機能の上からは一見問題がないように見える軽微な関節
の位置異常が、反復的な身体運動を通じてどのような付加や疲労をもたらすのか、運
動能力や エネルギー効率にどのような影響をもたらすのかが明らかにされてきまし
た。
軽微に見える運動系のアンバランスが、関節や筋の思わぬ負荷の増大
や故障の原因になるということが理解されるようになってきたのです。
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心と運
動系の関連性についての研究
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これとは別に、正常範囲内での筋肉の緊張が、精神的なストレスと密
接に結びついているという研究がすすめられてきました。
脳硬塞の後遺症では、障害された大脳新皮質の対側の上肢や下肢に片
麻痺が生じます。また実験的に延髄の上位で神経を切断された哺乳動物では、四肢の
筋肉が直突するいわゆる除脳硬縮が発生することが知られています。
これらの事例は、筋肉の働きにとって、中枢神経系の働きがきわめて
重要な役割をはたしていることを示しています。
行動主義心理学では、精神的な緊張やストレスによって、中枢の神経
系の機能が低下すると、末梢への統御機能が低下し、筋肉の緊張が高まることが知ら
れてきました。
そして、漸進的筋弛緩法や自律訓練法・バイオフィートバック、ある
いは呼吸法など、末梢の緊張した筋肉を活用して心の問題に対処しようとする実践が
進められ一定の効果をあげています。
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くつろ
ぎの運動学
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こころみに上にかかげたポーズをとってみて下さい。
バイオメカニクスでは、耳の穴・肩関節の中央・大腿骨の大転子・外
踝が一本の線を描いて垂直に並んだ立ち姿が、負荷の少ない理想的な直立姿勢とされ
ています。
このポーズは、耳の穴・肩関節の中央が直線上に並んだ頭頚部の理想
的な姿をつくるものですが、しばしば片側の肩の部に、「ズーン」と響くような疼き
を生じることがあります。
頚部を垂直に立てることは、力学的には無駄の少ない合理的なポーズ
です。姿勢としても美しく、理想的なポーズです。
しかし、痛みという点からは、ストレスの多い無理な姿勢である場合
が少なくないのです。
痛みを避けようとする運動は、生まれつき備わった無意識の反射です
が、わたしたちの身体は、痛みの発生を予測し、あらかじめ運動の向きや範囲、力の
加減やポーズの取り方を、無意識にコントロールしいるのがわかります。
わたしたちは、痛みの出ないように身体運動を制御したうえで、通常
の動作をおこなっているのです。
このような運動を、わたしたちは「くつろぎの運動」と呼んでいます。
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身体均
整法の捉える運動系
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姿勢の歪みや動作のくせなどにあらわれる運動系のアンバランスは、
ほとんどすべての人の身体運動に伴う普遍的なものです。
しかし、次のような理由から、従来十分に科学的な解明がおこなわれ
てきませんでした。
1. 身体運動という本来の目的から離れたものである。
2. 筋肉のポテンシャルからみると極めて軽微な能力に基づいている。
3. 人による個人差が大きく、一般化してとらえにくい。
姿勢の歪みや動作のくせは、一見するとあたかも身体運動の『誤差』
のようにしかみえません。
バイオメカニクスや行動主義心理学などの実践は、このような軽微な
運動系のアンバランスに、科学的な光をあてる貴重なものだといえるでしょう。
しかし、それらはいずれも、心身の異常によってやむを得ず歪み緊張
を強いられる受動的な運動系の姿でした。
わたしたちは、そこに心身をくつろがせようとする積極的な意義があ
るのではないかと考えているのです。
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