亀井先生とその時代〜回顧展〜その2
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身体均整法のはじまり
1951年、身体均整協会が設立されたのは、愛媛県松山市でした。
設立趣意書を見ると、当時の社会に対し「生活環境の改善、保健、体育施設の普及には見るべきものがあるが、体位の発揚、性情の安定をはかる」点で不充分だと分析しています。
そして、その原因は「個人の体質、個人の体の重心傾斜の科学的研究の閑却」にあるとし、「体質の科学的研究と、体の重心傾斜の探求をなし、その是正、復元操縦方法の調査、研究、組織に当たらんとし」身体均整体操、均整操縦法を制定したとしています。
ここに見られるのは社会改良運動としての身体均整法の姿です。
『家庭でできる無薬救急療法』
このような設立趣意書の精神をよく表した資料に『家庭でできる無薬救急療法』(発行年不詳、1952ころ?)があります(上図参照)。
この本のなかで、亀井先生は療術のことを、「この療法は誰でも習得できます」「家庭の医療費の節約に貢献することは間違いありません」と紹介しています。
そして「家計不如意でお医者さんにやっかいになれない人」「病気が慢性で〜気を腐らせている人」「お医者さんに見放されて悲観している人」の力になってあげることができると説いているのです。
前回、療術法制化の運動と亀井先生との関わりについて紹介しました。そして、『類別克服法』のまえがきに表れている「かなり挑戦的なニュアンス」について紹介しました。
一般に「療術法制化」などとというと、療術師のための「営業権確立」の運動のように思われるかもしれませんが、この本に表れているように、亀井先生の視点は、あくまで市井の一般の人々が、自ら役立てる療術の普及にあったことに注意しておかねばなりません。
このような立場は、1951年に表された『日本療術学』のなかで、よりはっきりしたかたちで表明されています。このことが、後々の身体均整法の成り立ちを考える上でとても重要な意味を思っているのです。
療術運動と亀井先生の関わり
亀井先生は、この本の前書きで、@自分をふくめ家族が次々と病に倒れ、多大な医療費の負担に苦しんできたこと、Aそのような生活を救ってくれたのが療術の高松梅次郎先生との出会いであったこと、Bその療術が禁止されると、自分と同じような境遇の人々を苦しめることになることを、赤裸々に述べています。
そして、このような現状のために、そもそも療術師ではなかった自分が、「運動にはせ参じ」、結局、「療術師という運命に追い込まれた」と伝えています。
亀井先生と療術とのこのような関わり方を見ると、亀井先生の療術の捉え方が、あくまで市井の一般の人々の側にあった事情がよく理解できます。
先に紹介した『日本療術学』のなかで、亀井先生は療術師の運動に対して、次のような辛らつな言葉を投げかけています。
「療術の姿をみると、現段階は経験治療法時代にあって、理論の裏付け、法則性が皆無だといってよい。だから利己的であり、独断論的であり、治療技術では、特技的に陥っている。ゆえに療術家は自己の最高点、すなわち特別の技術、特別にあがった効果のみを主張することに急で、足許のふらついていることに気付いていない。この点に療術の真の弱さがある。」
そして、療術学の出発点を次のように厳しく規定しています。
人類保健上の、而して将来に亘って科学的に価値ありと信ずる療術を明らかにするのだから、療術が無価値であるか否かを確かめる事よりほかに重大なる出発点はない
身体均整法は、このような亀井先生の問題意識によって生み出されました。
そこで意図されていたのは、専門の業者が営業のために活用する技術ではなく、広く一般の市井の人々が、自分たちの生活のために自ら役立てる技術だったのです。
亀井先生の療術運動の捉え方
このようなことが、亀井先生の療術運動を個性的なものにしてゆきました。
多くの療術運動家が、療術の有効性や、職業選択の自由などをもとに、療術の必要性を訴えているなかにあって、亀井先生は次にように述べています。
かくて療術の興隆に力を仮しているのは療術師ではなく、病める人達でもない。現代医療において環境療法がいまだ完成されていないことが、療術を発展せしめていることに気付かねばならない。
(『日本療術学』p.2)
じつは、このような亀井先生の問題意識ととても近い考えに立って療術運動を見つめている人たちがいました。
療術法制化運動に協力した日本の医師たちでした。
じつは、この当時、多くの医師たちが、療術の資格問題に関わっていました。
右にあげた資料は、京都大学生活科学研究所でおこなわれた療術実態調査についての懇談会について伝えるものです。
このような時代背景のなかで、亀井先生は、どのように自らの考えを形にしていったのか。次回は、その点を少し掘り下げてお伝えすることにいたしましょう。
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