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統合医療学会に身体均整法に関する論文を提出(その5)

                  三浦宏明 理事(学術部長)


「身体均整法の特徴と運動学的な意義について」(5)
characteristic and significance of kinsei、a view of kinematics



(前回に引き続いて、6月末に日本統合医療学会に提出した論文「身体均整法の特徴と運動学的な意義について」の内容を紹介してゆきます。)

6.前後型の姿勢の特徴

実際の施術にあたって、このような姿勢上の問題点に的確に適応するためには、身体の歪みを「前後」という一つのカテゴリーのなかで統合的に理解しておくことが必要である。このようなカテゴリーを、身体均整法では「体型」と呼んでいる。

下に示したのは、前後(屈曲/伸展)方向に生ずる姿勢上の問題を整理した「前後型」の体型的特徴である。

Rene Caillient 前掲書が指摘しているように、身体各部ができるだけ身体の重力線(縦軸)に近接している姿勢がエネルギー効率のよい姿勢であり、疲れにくい姿勢となる(p.22)。図に示した stage01?04 に至る変化は、姿勢保持のエネルギー効率が次第に低下してゆく傾向を示している。

このような姿勢の変化をもたらす最大の要因は、関節機能の低下である。具体的には、加齢や職業等による過度の使用、あるいは過度の運動不足などである。

脊椎骨を結び付ける椎間板の中心をなす髄核はコロイド膠質で、ムコ多糖類からなる。若く損傷を受けていなければ、椎間版の88%を水分が占める。核が老化する水結合能力が低下するばかりでなく、蛋白多糖類の減少により、水分の吸収力自体が低下する(Caillient 前掲書p.5?7)。

加齢にともなって、脊椎骨は、関節の可動性を失いながら直立能力を維持するために十分なカウンターアクティビティを作ろうと、より広範な背側領域を動員するようになる。stage01からstage02 への移行はこのような脊柱の可動性低下によってもたらされる。

とくに、腰椎5番領域の過伸展部位で痛みが発生すると、痛みをやわらげるための屈曲スパズムが発生する。膝を曲げることによって、骨盤を後継し、腰部の代償性彎曲を和らげようとする動きが無意識に生まれる。これがstage03である。

高齢化にともなって生じてくる円背は、このような前後型の体型変化のstage04に相当する。

本来、姿勢保持は、脊柱近傍の回旋筋や多裂筋などの深層筋によっておこなわれる活動である。遅筋成分を多く含むこれらの筋群は、瞬発力には乏しいものの、有酸素下での持続的な活動に優れ、姿勢保持機能に適している。

しかし、脊柱の前傾が強くなるにつれ、深層部にあって筋長の短い深層筋では十分に上体をひき起こせなくなり、表層部の筋肉がカウンターアクティビティを作り出すために動員されるようになる。

速筋繊維に富んだ表層の筋肉は、瞬発力にはすぐれるもの、酸素の運搬能力に乏しく、持続的な活動下ではすぐに痛みを発してしまう。

このような痛みは、stage04における日常生活に多発する痛みの主要な原因である。

実際には、円背にともなう痛みには、stage03の過伸展による痛みと、stage04の表層筋の筋肉疲労によるスパズムによる痛みが、1:3程度の割合で混在している。

痛みの発生原因を予測し、的確な対処を導くことは、「体型」に基づく姿勢や運動能力評価法の最大の利点である。

なぜなら「痛み」こそ、種々の運動制限をもたらす運動系最大の原因だからである。 7.カテゴリー分類の特性

前傾「加齢による腰部の可動性低下による姿勢変化」の図にあるように、「体型」にそった姿勢の理解は、円背が、動力学的研究(Kinematics)やバイオメカニクスで指摘されてきた重心移動能力や伸展能力ばかりでなく、1.肩背部の硬化や、2.頚部の過伸展、それにともなう3.頚肩部の神経根症状、さらに4.視力や聴力低下、上眼瞼下垂など、頭部周辺器官のコニュニケーション能力の減退をともなって進行してゆくことを示している。

次の写真は、円背と下胸椎部から腰椎部にかけての強い右側彎をともなって歩行時痛を抱えた高齢の方に対する施術前後の直立姿勢と伸展動作を対比したものである。

施術にあたっては、円背の問題が脊柱の前後方向の可動性低下にあることを理解し、頚部から腰部にわたる全域の可動性の改善をはかることが重要である。

その際、円背であっても、1.運動や刺激によって脊柱の柔軟性は回復できること、そのことが2.歩行困難や痛みをやわらげるための重要なポイントであることの理解をはかりながら、自発的な運動習慣の意義を理解してもらうことが重要である。

また痛みに対する対処で、過伸展スパズムによるものなのか、表層筋の筋疲労によるものなのかを区別して、的確な操作をおこなうことが大きな意味を持っている。

上の例では、表層筋の筋疲労による痛みが歩行困難を招く大きな原因となっていたが、脊柱の弾力性を回復し腰方形筋の緊張を緩解すると、痛みがとれ歩行動作がとても楽になるとおっしゃられている。継続的な施術を通じて、痛みの発生するメカニズムや生活上の工夫などもご理解いただくよう努めている。


(つづく)



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